ホルベイン専門家用顔料とその素材
各種下地調整法
吸収性下地塗料
吸収性下地は、テンペラ絵具から油絵具まで各種の絵具の基底材になる。その特徴は、艶のない画面、顔料本来の発色、絵具の速乾性など。欠点としては、厚塗りすると亀裂になる可能性が高い。
(1) 金地テンペラ用処方
- 温かい膠液(膠7~10g:水100g)をビーカーにとり、ボローニャ石膏を振り入れる。
- 石膏が膠液面に到達した段階で止める。
(注意) 容器を揺すったりしてはならない。(余分な石膏が入るため) - この下地は、板に布を貼った支持体に20回程度塗り重ね、乾燥後、削り鋼パネルで切削をし、平滑にして使用する。金箔の磨きに最適。
膠の溶解法
処方
膠 | 10g |
---|---|
水 | 100g |
防腐剤 | 5滴 |
防黴剤 | 耳掻き6〜8杯 |
- ビーカーなどの容器に膠10g、冷水100gを入れ12時間以上膨潤させる。
- その後、湯煎にかけゆっくりと溶解させる。湯煎の温度は60℃までが良い。
- 膠が溶解したらガーゼで漉して使用に供する。
備考:膠は腐敗する材料なので防腐剤・防黴剤を添加しておく。
〈湯煎の方法〉
板に布を貼る方法
- 板にサンドペーパー(400~600番程度)を掛け、膠液を塗る。これを前膠塗りとか目止めという。
- 乾燥後、更に膠液を塗って布を貼る。
- 金地テンペラ画にはホルベイン板絵用麻布を用いる。
この麻布は蚊帳状のもので、通常のキャンバス生地とは異なる。 - 板に布を貼ると下地塗料の喰いつきの良さや板の亀裂の画面への影響を少なくすることができる。
(2) 一般的吸収性下地処方
(a)膠を使用した塗料(約2~3m2塗布可能)
処方
膠液(膠10g:水100g) | 100g |
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ムードン下地用 | 50g |
ムードン仕上用 | 50g |
チタ二ウムホワイト | 100g |
水 | 100~200g |
- 温かい膠液に顔料類を振り入れ、ゴムベラなどで充分に練り込み、凝集粒子をつぶす。
- その後、水を混合して塗料を薄め使用する。
- 支持体としては、綿布などを貼った板、膠塗りキャンバス。塗料は膠塗りキャンバスの場合は3回塗り程度で抑えること。
備考:塗りが厚いと亀裂になる。
(b)カゼインを使用した処方
カゼイン溶液 | 100g |
---|---|
ムードン下地用 | 50g |
ムードン仕上用 | 50g |
チタニウムホワイト | 100g |
水 | 100~200g |
- カゼイン溶液に顔料類を振り入れ、ゴムベラなどで充分に練り込み凝集粒子をつぶす。
- その後、水を混合して塗料を薄め使用する。
- 支持体は、この塗料がかなり硬化するところから、綿布などを貼った板を用いるのが良い。塗料は2~3回程度薄く塗ること。
カゼインの溶解法
処方1
- 30gのカゼインを150gの水に入れ一夜放置する。
- 翌日、60℃に湯煎して温め、攪拌しながら6mlの市販アンモニア水を滴下する。
- その後、90℃まで加熱し、ビンに入れて密栓し冷暗所に保存する。
備考:アンモニアはやや毒性があるので吸引に注意。
処方2
- 50gのカゼインに水125gを加え一夜放置する。
- 翌日、60℃に湯煎で温め攪拌しながら15gの炭酸アンモニウム(予め少量の水で溶解)を滴下する。
- 白い糊状となったら更に125gの水を加え攪拌し、ビンに入れ冷暗所に保存する。
備考:
炭酸アンモニウム添加時、発泡して溶液が噴きこぼれることがあるので、容器は平たいものを使用する。
カゼイン溶液は腐敗しやすいので防腐剤を添加しておくこと。
半吸収性下地塗料
この塗料はリンシード油の混入で吸収力が抑えられている。テンペラ絵具や油絵具、その両者の併用の混合技法の下地に使用される。
処方
膠液(膠7~10g:水100g) | 100g |
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ムードン下地用 | 50g |
ムードン仕上用 | 50g |
チタニウムホワイト | 100g |
サンシックンド リンシード オイル | 30~50g |
水 | 200g |
- 温かい膠液に顔料類を振り入れ、ゴムベラなどを使用し良く練りながら凝集粒子をつぶす。
- 全体に少し冷まし加減にし、サンシックンド リンシードオイルを細い糸状にして垂らしながら激しく攪拌混合する。
- 続いて膠液の2倍量の水を少しずつ加え塗料を希釈する。
備考:
注意事項としては、油の添加手順を間違えてはならない。手順の変更は乳化の失敗になる。油添加は塗料全体が粘りがあって、冷えている方がやりやすい。
スタンド油を使用する場合もあるが、この場合は水で希釈した時に油が分離しやすい。
いずれも使用時には良く攪拌して塗布する。
塗料は布張り板、膠塗りキャンバスに塗る。キャンバスの場合は薄く塗り3回程度の塗りに留めること。
非吸収性下地塗料
この塗料は、吸収力が弱く油絵具の描画に適している。油絵具の光沢、色彩の深みが保証される。そして大きな作品の場合も下地からくる亀裂の弊害はない。反面、吸収性が弱いために絵具の乾燥が遅いことがある。
処方
シルバーホワイト(鉛白) | 70g | |
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ムードン下地用 | 10g | |
油絵具用メディウム(リンシードタイプ) | 20g | → [作り方] |
- ステンレスボールに各材料を計量し、良く攪拌し顔料と油をなじませる。
- 練り板上にこれを取出し、練り棒を8の字を描く様に動かし練り合わせていく。
- 練り上がった絵具は、ペトロールで緩くのばし腰の強い刷毛で膠塗りキャンバスに塗布していく。
- 一度塗布し7~10日間の乾燥後、二度目の塗布を行なう。
備考:
この下地は4週間程度の乾燥の後に使用する。